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最高裁判所第二小法廷 平成6年(行ツ)125号 判決

上告人

選定当事者

山田秀夫

選定当事者

山田妙子

選定当事者

古澤隆司

選定当事者

古澤壽美子

(選定者は別紙選定者目録記載のとおり)〈省略〉

被上告人

東京都選挙管理委員会

代表者委員長

新井一男

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告人らの上告理由一について

原判決添付の別表第一の議員定数配分に基づき適法な議員定数配分規定を示すことを求める上告人らの訴えを不適法とした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

同二ないし五について

一  東京都議会の議員の定数、選挙区及び選挙区への定数配分は、平成五年六月二七日当時、次のとおり定められていた。すなわち、都道府県の議会の議員の定数については、地方自治法により、その人口数に応じた定数の基準等が定められているが(九〇条一項)、都にあっては特別区の存する区域の人口を一〇〇万人で除して得た数(ただし、一三〇人を定限とする。)を限度として条例で増加をすることができ(同条二項)、右一、二項による議員の定数は、条例で特にこれを減少することができるものとされている(同条三項)。そして、都道府県議会の議員の選挙区については、公職選挙法(平成六年法律第二号による改正前のもの。以下「公選法」という。)により、都市の区域によるものとし(同法一五条一項)、ただし、その区域の人口が当該都道府県の人口を当該都道府県議会の議員の定数をもって除して得た数(以下「議員一人当たりの人口」という。)の半数に達しないときは、条例で隣接する他の郡市の区域と合わせて一選挙区を設けなければならず(同条二項。以下「強制合区」という。)、その区域の人口が議員一人当たりの人口の半数以上であっても議員一人当たりの人口に達しないときは、条例で隣接する他の郡市の区域と合わせて一選挙区を設けることができるものとされている(同条三項)。もっとも、強制合区については例外が認められており、昭和四一年一月一日当時において設けられていた選挙区については、当該区域の人口が議員一人当たりの人口の半数に達しなくなった場合においても、当分の間、条例で当該区域をもって一選挙区を設けることができる(同法二七一条二項。以下、この規定によって存置が認められた選挙区を「特例選挙区」という。)。このようにして定められた各選挙区において選挙すべき議員の数は、人口に比例して、条例で定めなければならないが(同法一五条七項本文)、特別の事情があるときは、おおむね人口を基準とし、地域間の均衡を考慮して定めることができるとされている(同項ただし書)。そして、特別区は、公選法の各規定の適用に当たって市と同様に扱われるが(公選法二六六条一項)、議員の定数配分に当たっては、特別区の存する区域以外の区域を区域とする各選挙区において選挙すべき議員の数を、特別区の存する区域を一の選挙区とみなして定め、特別区の区域を区域とする各選挙区において選挙すべき議員の数を、特別区の存する区域を一の選挙区とみなした場合において当該区域において選挙すべきこととなる議員の数を特別区の区域を区域とする各選挙区に配分することにより定めることができるとされている(同条二項)。

右の各規定からすれば、議員の法定数を増減するかどうか、特例選挙区を設けるかどうか、議員定数の配分に当たり人口比例の原則を修正するかどうかについては、東京都議会にこれらを決定する裁量権が原則として与えられていると解される。

二  そこで、本件における議員定数配分の適否について検討する。

1  特例選挙区に関する公選法二七一条二項の規定は、社会の急激な工業化、産業化に伴い、農村部から都市部への人口の急激な変動が現れ始めた状況に対応したものであるが、また、郡市が、歴史的にも、政治的、経済的、社会的にも独自の実体を有し、一つの政治的まとまりを有する単位としてとらえ得ることに照らし、この地域的まとまりを尊重し、これを構成する住民の意思を都道府県政に反映させることが、市町村行政を補完しつつ、長期的展望に立った均衡のとれた行政施策を行うために必要であり、そのための地域代表を確保することが必要とされる場合があるという趣旨の下に、昭和四一年法律第七七号による公選法の改正により現行の規定となったものと解される。そして、具体的にいかなる場合に特例選挙区の設置が認められるかについては、客観的な基準が定められているわけではないから、結局、右のような公選法二七一条二項の規定の趣旨に照らして、当該都道府県の行政施策の遂行上当該地域からの代表を確保する必要性の有無・程度、隣接の郡市との合区の困難性の有無・程度等を総合判断して決することにならざるを得ないところ、それには当該都道府県の実情を考慮し、当該都道府県全体の調和ある発展を図るなどの観点からする政策的判断をも必要とすることが明らかである。したがって、特例選挙区の設置を適法なものとして是認し得るか否かは、この点に関する都道府県議会の判断が右のような観点からする裁量権の合理的な行使として是認されるかどうかによって決するよりほかはない。もっとも、都道府県議会の議員の選挙区に関して公選法一五条一項ないし三項が規定しているところからすると、同法二七一条二項は、当該選挙区の人口を議員一人当たりの人口で除して得た数(以下「配当基数」という。)が0.5を著しく下回る場合には、特例選挙区の設置を認めない趣旨であると解されるから、このような場合には、特例選挙区の設置についての都道府県議会の判断は、合理的裁量の限界を超えているものと推定するのが相当である。以上は、当審の判例の趣旨とするところである(最高裁昭和六三年(行ツ)第一七六号平成元年一二月一八日第一小法廷判決・民集四三巻一二号二一三九頁、最高裁平成元年(行ツ)第一五号同年一二月二一日第一小法廷判決・民集四三巻一二号二二九七頁、最高裁平成四年(行ツ)第一七二号同五年一〇月二二日第二小法廷判決・民集四七巻八号五一四七頁)。

そこで、東京都議会議員の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の数に関する条例(昭和四四年東京都条例第五五号。以下「本件条例」という。)についてみると、原審の適法に確定するところによれば、(1) 東京都議会においては、平成五年六月二七日施行の東京都議会議員の選挙(以下「本件選挙」という。)に先立ち、東京都議会各会派代表一五名で構成する東京都議会議員定数等検討委員会を設置し、合計一二回の審議を重ねるとともに、併行して小委員会を一五回開催して、定数是正問題等について全面的検討を行うこととし、平成二年の国勢調査の結果のほか、他県における定数問題の状況、今後の人口予測、東京都の特殊性などを考慮して、定数是正問題について審議、検討を行った、(2) 平成二年の国勢調査の結果によれば、千代田区選挙区の人口が議員一人当たりの人口の半数に達しないこと、その配当基数は0.426であることが明らかになった、(3) 東京都議会では、平成四年六月一七日、右小委員会及び東京都議会議員定数等検討委員会の検討結果を踏まえて本件条例の改正を行ったが(以下「本件改正」という。)、この改正に当たり、千代田区選挙区については、その配当基数が0.5を著しく下回るものではないこと、千代田区が我が国の政治的、経済的中枢として担ってきた歴史的かつ独自の意義、役割及び特別区制度における地域代表としての議員の必要性等を考慮して、これを特例選挙区として存置することにしたというのである。

右の事実関係によれば、東京都議会は、千代田区が我が国の政治的、経済的中枢として担ってきた歴史的かつ独自の意義、役割及び特別区制度における地域代表としての議員の必要性などを考慮し、東京都全体の調和ある発展を図るなどの観点から、千代田区選挙区を特例選挙区として存置することの必要性を判断し、地域間の均衡を図るための諸般の要素を考慮した上で、これを特例選挙区として存置することを決定したものということができる。そして、千代田区選挙区の配当基数は、いまだ特例選挙区の設置が許されない程度に至っていないことは明らかであるし、他に、東京都議会が、本件改正後の本件条例において千代田区選挙区を特例選挙区として存置したことが社会通念上著しく不合理であることが明らかであると認めるべき事情もうかがわれない。所論主張のような原因によって千代田区の人口が減少したことは、右の判断を左右するものではない。したがって、同議会が同選挙区を特例選挙区として存置したことは、同議会に与えられた裁量権の合理的な行使として是認することができるから、本件改正後の本件条例が千代田区選挙区を特例選挙区として存置したことは適法である。

2  次に、都道府県議会の議員の選挙に関し、当該都道府県の住民が、その選挙権の内容、すなわち投票価値においても平等に取り扱われるべきであることは憲法の要求するところであると解すべきであり、公選法一五条七項は、憲法の右要請を受け、都道府県議会の議員の定数配分につき、人口比例を最も重要かつ基本的な基準とし、各選挙人の投票価値が平等であるべきことを強く要求しているものと解される。もっとも、前記のような都道府県議会の議員の定数、選挙区及び選挙区への定数配分に関する法の定めからすれば、同じ定数一を配分された選挙区の中で、配当基数が0.5をわずかに上回る選挙区と配当基数が一をかなり上回る選挙区とを比較した場合には、右選挙区間における議員一人に対する人口の較差が一対三を超える場合も生じ得る。まして、特例選挙区を含めて比較したときには、右の較差が更に大きくなることは避けられないところである。また、公選法一五条七項ただし書は、特別の事情があるときは、各選挙区において選挙すべき議員の数を、おおむね人口を基準とし、地域間の均衡を考慮して定めることができるとしているところ、右ただし書の規定を適用していかなる事情の存するときに右の修正を加え得るか、また、どの程度の修正を加え得るかについて客観的基準が存するものでもない。したがって、定数配分規定が公選法一五条七項の規定に適合するかどうかについては、都道府県議会の具体的に定めるところが、前記のような選挙制度の下における裁量権の合理的な行使として是認されるかどうかによって決するほかはない。しかし、定数配分規定の制定又はその改正により具体的に決定された定数配分の下における選挙人の投票の有する価値に不平等が存し、あるいはその後の人口の変動により右不平等が生じ、それが都道府県議会において地域間の均衡を図るため通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお、一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達しているときは、右のような不平等は、もはや都道府県議会の合理的裁量の限界を超えているものと推定され、これを正当化すべき特別の理由が示されない限り、公選法一五条七項違反と判断されざるを得ないものというべきである。以上は、当審の判例の趣旨とするところである(前掲各小法廷判決)。

そこで、原審の適法に確定した事実に基づき、本件改正後の本件条例における定数配分の状況についてみると、本件選挙当時においては、特例選挙区を除いたその他の選挙区間における議員一人に対する人口の最大較差は1対2.04(中央区選挙区対武蔵野市選挙区。以下、較差に関する数値は、いずれも概数である。)、特例選挙区とその他の選挙区間における右最大較差は1対3.52(千代田区選挙区対武蔵野市選挙区)であり、いわゆる逆転現象は一八通りあるが、定数二人の顕著な逆転現象は一通りのみであった。そして、本件選挙当時における各選挙区の配当基数に応じて定数を配分した人口比定数(公選法一五条七項本文の人口比例原則に基づいて配分した定数)を算出してみると、右人口比定数による議員一人に対する人口の最大較差は、特例選挙区を除くその他の選挙区間においても、特例選挙区とその他の選挙区間においても、本件条例の下における右の較差と同一の値となるのであって、本件条例の定数配分規定の下における議員一人に対する人口の最大較差は、特例選挙区の設置を含む前記の選挙区割に由来するものということができる。

公選法が定める前記のような都道府県議会の議員の選挙制度の下においては、本件選挙当時における右のような投票価値の不平等は、東京都議会において地域間の均衡を図るために通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお、一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達していたものとはいえず、同議会に与えられた裁量権の合理的な行使として是認することができる。したがって、本件改正後の本件条例に係る定数配分規定は、公選法一五条七項に違反するものではなく、適法というべきである。

三  結論

以上と同旨の原審の判断は正当として是認することができ、論旨は採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官大西勝也 裁判官中島敏次郎 裁判官根岸重治 裁判官河合伸一)

上告人らの上告理由

一、原判決は、その主文一において、「原告らの本件訴えのうち、原告ら提出の別表第一の議員定数配分に基づき適法な議員定数配分規定を示すことを求める訴えをいずれも却下する」とし、その理由としては、「そのような訴えを許容している法律は存在しないから不適法であることが明らか」だからと述べる。

しかし、原判決のこの判断は、従来の裁判所の判断と矛盾する。

本件と同種の東京都議選定数訴訟に対する昭和六一年二月二六日東京高裁判決は、その判決理由において、「定数訴訟において無効判決をする裁判所としては、主文において無効を判示するのみならず、申立てにより、当事者から示された配分規定(たとえば、本件における原告提出の別紙第一表B又は被告提出の同第五表など。)に基づき、適法な配分規定を判示する権限と責務を有するものと考えるべきであろう。」と述べ、原裁判所に対し上告人らが求めた上記訴えを認める判断を示している。

同事件の上告審における昭和六二年二月一七日最高裁判決は、原判決のこの判断を否定する見解は何ら示していない。

また、これも本件と同種の東京都議選定数訴訟に対する平成二年一月三〇日東京高裁判決は、原告らが、本件訴えと同様、原告ら提出の議員定数配分規定に基づく適法な議員定数配分規定を示すよう求めたのに対し、この訴えは、「本件選挙の無効を前提とするものすなわち、右無効を求める請求が棄却されることを解除条件として提起されたものと解されるから、その訴えの適否については、判断しない。」と述べ、判断を留保している。

最高裁判所は、以上の点について統一的判断を明示される必要があるが、上告人らは上記の昭和六一年東京高裁判決が指摘するとおり、全選挙区から選挙無効訴訟が提起されて選挙無効の判決がなされた場合を想定した場合、全議員が議員資格を失い定数是正を講じられない事態も理論上考えられ得るのであるから、訴訟当事者から示された配分規定に基づき、究極には適法な配分規定を判示する権限と責務が裁判所になければならない構造になっていると考える。

二、原判決は、都議会が、千代田区選挙区を公選法二七一条二項適用の特例選挙区とした点について、これを妥当と判断しているが、その判断は、同条項の立法趣旨に反するうえ、都議会議員が都民全体の代表であるとしている従来の判例にも反している。

原判決は、同二七一条二項の適用について、唯一、当該選挙区のいわゆる配当基数が0.5を著しく下回っている場合以外、すべて議会の裁量権の枠内と捉える全くの機械的判断に立っている。

公選法が定める特例選挙区は、もともと昭和三七年法律第一一二号により設けられたものであり、当初は島についてのみ設置が認められていたものであるが、昭和四一年法律第七七号により、いわゆる高度経済成長下にあって社会の急激な工業化、産業化に伴い、農村部から都市部への人口の急激な移動が現われ始めた状況に対応すべく改正された、とされている。

しかしながら、上告人らが原審において立証したとおり、千代田区の人口減少の原因は、事務所需要の拡大、業務地化の進行(木村・千代田区長所見)、住居スペースの減少、居住環境の悪化、地価高騰に伴う相続税の莫大な負担(吉成・千代田区議会議長所見)であり、上記昭和四一年の法改正の趣旨と合致しない。

原判決は、こうした具体的事情を何ら検討していない。

さらに、原判決は、都議会議員を専ら各選挙区の利益代表と考える被上告人の考え方をそのまま受け入れ、議員が全都民の代表であるという認識を全く持っていない。

都議会議員が全都民の代表であることは、都議選定数訴訟に対する東京高裁昭和五八年七月二五日判決および上記の昭和六一年二月二六日判決において明言され、平成二年一月三〇日判決は、被告の都選管の主張を「都議会議員の地域代表的性格を過度に強調するもの」と指摘している。

公選法一五条二項の選挙区の強制合区規定は、行政区と選挙区を区分したうえで、選挙区として合区したところで行政区が廃止されるわけではないことを前提にしている。

千代田区選挙区を隣接の選挙区と合区したとしても行政区としての千代田区が消滅するわけではないのである。

百歩譲って、議員が地域利益の代弁者としての機能を果たしているとしても、千代田区の利益は、合区された隣接区の利益とともに、合区された選挙区から選出される議員によって代弁され得るのである。

公選法一五条七項の議員定数配分の人口比例の定めが、憲法上の要請に基づき、各選挙人の投票価値の平等を「強く」要求していることは、累次の定数訴訟において再三再四確認されている。そうした憲法の強い要求を斥けてまで千代田区選挙区の合区を嫌い最大3.52もの議員一人当たり人口較差を残存させる正当な理由がいったい奈辺に存在するのであろうか。

三、いわゆる逆転減少は、本件選挙時、一八通り残存し、特に品川区選挙区と町田市選挙区間では二人も逆転していた。

最高裁昭和六二年二月一七日判決は、逆転現象について、「公選法が全くこれを予定するものでないことはいうまでもない。」と述べている。

公選法が全く予定していない逆転現象を存在させることがなぜ議会の裁量権の範囲内なのであろうか。原判決は、最高裁判決の指摘を全く理解していない。

本件定数条例の改正により、逆転現象の数が七九ないし八〇通りから一八通りに量的に減少し、二人の逆転が六通りから一通りに現象したからといって、問題点の本質的解消とは言えない。

公選法一五条七項ただし書の「特別の事情があるとき」という規定からしても、逆転現象という公選法の全くの予定外の逸脱については、「特別の事情」の立証義務が都議会にあったはずである。しかし、本件定数条例の改正審議のなかでは、「特別の事情」は何ら述べられていないし、「特別の事情」の立証義務を議会に認めなかった原判決は、公選法一五条七項ただし書に反している。

四、原判決は、本件定数条例の改正により、人口比定数と合わない選挙区数が四一選挙区中二三から四二選挙区中一三に減少し、人口比定数と二人以上合わない選挙区数が六から一(練馬区選挙区)に減少したことをもって、従来最高裁が何度も指摘してきた問題点が解消したと判断している。いったい何故そうした判断が可能なのであろうか。原判決はこの点で従来の最高裁判決における指摘を正しく理解していない。

公選法一五条七項は、「各」選挙区の議員定数を人口に比例して条例で定めなければなない、と定めているのであるから、それぞれの選挙区の議員定数が人口比と合致しない場合、同条項ただし書に従い、「特別の事情」が明らかにされなければならないはずである。

「特別の事情」が示されないまま、人口比定数との不一致の選挙区の残存を、議会の裁量権の「合理的」な行使の範囲内だとする原判決の判断は、極めて非合理的判断であり、公選法一五条七項ただし書の趣旨に反する。

五、さらに原判決は、公選法一五条七項本文の人口比定数を見ても、人口較差の最大値は特例選挙区を除いた場合も、特例選挙区を含めた場合も、条例上の較差と同一の値となっている旨述べるが、この認識には基本的誤りがある。

確かに、特例選挙区を除いた場合の人口較差の最大値は、人口比で配分した場合も条例上の値もともに2.04で一致するが、特例選挙区は、公選法一五条二項からすれば人口比例での定数配分がもはや不可能であるため、隣接する他選挙区と合区しなければならない選挙区であるが、特例として存置が認められる選挙区である。つまり、特例選挙区への配分(定数一)は、人口比の配分ではないのである。だからこそ「特例」なのである。原判決は、特例選挙区への定数配分も人口比配分だと捉える点で、公選法二七一条二項を誤解している。

それ故、たとえ特例選挙区を存置するとしても、人口比例で定数を配分した場合の較差という場合、そのなかに特例選挙区を含めることは、それ自体が矛盾していることになるのである。

したがって、人口比定数を基準とする考え方をとるならば、本件においては2.04がその最大値であり、現実の条例上の選挙区間較差のうち、2.04を超える違法較差の選挙区は、武蔵野市(3.52)他全部で三一もある。

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